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はじめに…
中野裕之(NAKANO HIROYUKI)
映像作家。
ピースデリック有限会社主宰。
1993年ピースデリックを設立以来、見る人をなんだか気持ち良くするピースな映像の研究に没頭する傍らにピース活動と広告、音楽ヴィデオWEBやTVのプロデユースをやりつつもピースでファンキーな映画作りを目指して日夜シナリオを亀の速度で執筆中。
美しい人をさらに魅力的に、カッコイイ人を猛烈にカッコよく、味のある人を美味に仕上げる演出は映像バカならでは。
映画『サムライ・フィクション』で韓国プチョン国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。
MTVの歴史を変えたdeeeliteの作品がアワード6部門にノミネートされたほか、日本では布袋寅泰、今井美樹、GLAY, MR.children, テイ・トウワ、DREAMS COME TRUEほか多数のミュージシャンを手がける。
中野裕之監督 スペシャルインタビュー
短篇映画『アイロン』カンヌ映画祭受賞記念
受賞作 『アイロン』 より
●第1章“アイロン道” に魅せられた男
―――カンヌでの『アイロン』の国際批評家週間・ヤング批評家賞受賞おめでとうございます! つい先ほど本編を拝見したんですが、あまりの研ぎ澄まされたモノクロの映像美に今でも頭の中がボーっとしています。
中野
ははは(笑)。まるで催眠術みたいでしょう?静寂から始まって、中盤で盛り上がったあとに、また静寂へと戻っていく。この緊張と弛緩の切り返しが実によく効くんですよ。
―――原作は東元三郎さんの「人生市場・闇市篇」という短編集の1エピソードだそうですね。
中野
ええ、ひとりの若いヤクザがアイロンを掛け続ける、たった2ページのエッセイです。その文体も、「男は身長151センチで、細身で、背中には力士の刺青があって」という具合に“ト書き”しかない。今回、そういったスケッチの積み重ねをどう映像で繋いでいくかっていうのがひとつの挑戦だったんです。
―――上半身裸で黙々とアイロンを掛ける主人公には凄みを感じました。
中野
身長が151センチというと、これはもうボクサーをキャスティングするしかない。さっそくその条件で探してもらったら、すぐにライトフライ級の家住勝彦くんが見つかった。坊主で、筋肉隆々で、それでいて、ちょっとぶきっちょなんだけどね(笑)。
―――どうして主人公はアイロンを掛け続けるんでしょう?
中野
その質問はカンヌでも出たんだけど、一言で言えば「無心になれるから」。たとえば茶道だと、茶碗の中でシャカシャカ混ぜているうちに、当人はいつの間にか無心になっていると聞きます。『アイロン』の主人公は、過去にいろいろ血なまぐさいことがあったヤクザなんだけれど、そんな彼もアイロンさえかけていれば無心になれる。つまりこれは「アイロン道」と呼べるのかもしれません。
―――カンヌでは「アイロンが船みたいに見える」との感想も寄せられたそうですね。
中野
あの形、あの動き、まさにシュウシュウ蒸気を吐く船ですよね。フィルムで観ると、白シャツの質感も大海原のようにフワーッと綺麗でね。あれはさすがにカメラマンの職人技を感じたなあ。僕はいつも監督とカメラマンを兼任する場合が多いけど、今回は監督だけに徹したんです。
―――ということは、撮影中はモニターを見ずに?
中野 
ええ、すべてカメラマンに任せきりでした。だから、あの映像が最後までしっかり緊張感を保てているのは、そういうビシッとした職人技の賜物なんですよ。そうやってスタッフの力を信頼しながら取り組むスタイルが、今回とてもいい結果を生んだと思う。やっぱりそれが映画だよな、って。
●第2章 中野裕之とショートフィルム
―――中野監督といえば、ショートフィルムというジャンルに日本でいち早く取り組まれた一人だと思うのですが、そのきっかけはなんだったんでしょう?
中野
僕は、2001年の『Red Shadow 赤影』の後に、少し鬱な状態になったり、他にもいろんなことが重なって、“中野裕之・冬の時代”ってのがしばらく続いたんです。そんな中、ある占い師に見てもらったら、「2005年までは冬の時代が続いて、その後は少しずつ回復していく。そして、80歳になったら傑作を撮る」って(笑)。その頃、ちょうど地球環境のことでも深く落ち込んでいた時期だったんだけど、「そうか、(80歳になるまで)地球は滅びないのか。じゃあそれまでコツコツ頑張ろう」とようやく前向きになれたんです。で、まずはファンとして、無性に麻生久美子が撮りたくなった(笑)。
―――それで『SF Short Films』に着手されたわけですね。
中野
あの時、僕は全体のプロデューサーもやっていて、自分の監督作以外は金の計算さえしていればよかった。でも案の定、すぐ暇になって、他にも音声マンとか、カメラマンとかいろいろやってみた。すると、現場の様子がこれまでとはまったく違った視点で見えてきて、いちばん肝心な監督の指示がさっぱり理解できなかったりしたんですよ。「ああ、オレもいつもこうなんだろうなあ」って(笑)、スタッフワークについていろいろ学びましたね。
―――現在「短篇jp」で配信中の『全速力海岸』も大きな反響を呼んでいるようですが。
中野
あの作品は、打ち合わせでまずタイトルがバーン!と決まって、そこで僕は大笑いをしてしまった(笑)。『全速力海岸』・・・すごいタイトルですよね。ほんと、くだらないよなあ(笑)。
―――その“くだらなさ”を追究するため、脚本執筆にはかなり時間をかけられたとか。そもそも中野脚本には予算の見積もりまで付いているそうですね。
中野
だって、脚本に現実味のないことを書いて、後でガッカリするのはイヤだから。予算と折り合う条件がだいたい出揃ったところで、いよいよ具体的な映像が頭の中で動き出す。「女がハイヒールを脱いで走る」とか、「剣道着姿の男が走る」とか、とにかくいろんなことを考えて、そしてどんどん捨てるんです。
―――まるでブレイン・ストーミングですね。
中野
企画会議の時なんかスゴイですよ。僕が思いつくままにアイディアを喋るものだから、誰もついてこられない。あ、それ以前に、僕の喋り言葉って「中野語」って言われるほど特殊なものらしく、驚くほど人の記憶に残らない。妻にはいつも「それは主語が抜けてるからよ」と叱られるんです(笑)。
●第3章 80歳になって撮りたい傑作
―――僕がとても不思議に思うのは、『アイロン』にしても『全速力海岸』にしても、中野監督のショートフィルムは何度観ても飽きないって言うか、まるで音楽を聴いてるような感覚で観れちゃうんですよね。
中野
映像にとってその「観れちゃう」っていうのは大事なことで、それはつまり、“間”の取り方だと思う。僕はよくホームビデオで花火の映像を編集するんだけど、あれは花火がバーンと上がって、ギラギラギラギラって黒味に落ちていって、「1、2、3」と数えてからまたプシューンと上がるタイミングがいちばん気持ちいい。バンバン途切れなく打ち上がるよりは、必ずひとつの終わりがあって、一度呼吸を整えてから次のアクションに移っていく。そういった“間”が身についてないと、映像は途端に「観れなく」なってしまうんです。
―――それが長編になると、もうちょっと複雑になりますよね。
中野
いつの時代でも、心に沁みる作品をじっくりと描けば誰もが感動してくれるものです。リリー・フランキーさんの「東京タワー」があんなに感動するのも、凄く正直に母親と自分の間の愛情が描かれてるから。でも一方で、いくら作り手が「感動させるぞ!」って意気込んでも、それは「笑わせよう!」と思っても全然ウケないのと一緒で、やっぱり受け手にそういう想いを起こさせる“間”をきちんと与えてあげないと、決してうまくはいかない。
―――その辺のバランス感覚ってとても難しいですね。
中野
たとえば、僕らが結婚式でなぜ泣いちゃうのか。そこにはやっぱり場の空気があるわけで、花嫁の生い立ちやら、父親との思い出やら、いろんな段取りが2時間あって、ようやく泣けるわけです。でも、いい音楽って、ものの3分で泣けるでしょう?他にも夕陽が沈む光景や、イルカが泳ぐのを見ながら、無性に涙がこみ上げてくることってありますよね。
―――なるほど、それは短編・長編の枠組みを超えた究極の価値観のように思えます。
中野
僕は、いい映画っていうのは、たとえ途中からでも受け手を引き込んで放さないものだと思ってます。それはやっぱり、作品にヴァイブレーションが感じられるかどうかなんですよ。いつか僕が、あの占い師の言う「80歳になってからの傑作」を発表するとき、それがどこから見ても無性に泣けちゃうものになっていれば、もう最高ですね。
―――本日はお忙しい中、ありがとうございました!
インタビュー&構成:牛津厚信(映画ライター)http://cows.air-nifty.com/seagal/
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